
「ブラック企業」は、法律で決められた言葉ではありません。働く人に、長時間労働や、法令に反する働かせ方を強いる企業を指す、通称です。完全に見分けることはできませんが、求人票・面接・口コミ・公的情報の4つを組み合わせて確認すれば、リスクを大きく減らせます。この記事では、IT業界で起こりやすいパターン、求人票の読み方、固定残業代のルール、面接で聞く質問、SES・客先常駐の見極め方、入社前に書面で確認すること、入ってしまったときの考え方まで、厚生労働省の公開情報と当社の知見をもとに整理しました。
この記事のポイント
インターネットには、「ブラック企業の一覧」を探す声が、数多くあります。しかし、特定の企業名の一覧に頼るのは、おすすめしません。口コミは、少人数の意見に偏ることがあり、公的な公表情報も、「掲載されていない=問題がない」ではないためです。
大切なのは、自分で確認する方法を持つことです。次の4つの面から、情報を集め、気になる点は、面接や、転職エージェントを通じて、直接質問します。
| 確認する面 | 確認できること | 限界 |
|---|---|---|
| 求人票 | 給与の内訳、固定残業代、勤務時間、研修、募集の頻度 | 書かれていない情報は、分からない |
| 面接・面談 | 研修・配属・離職の実態、社員の雰囲気 | 企業側の説明に、偏りがある場合もある |
| 口コミ | 現場の声、残業・評価の実態 | 少人数の意見に偏り、古い情報もある |
| 公的情報 | 法令違反の公表事案、職業紹介事業者の許可の有無 | 公表されるのは、一部の事案のみ |
4つの面で、同じ懸念が重なる場合は、慎重に判断してください。1つの面だけの情報で、決めつけないことが大切です。
避けたい企業の特徴を、先に整理したい方は、「入ってはいけないIT企業」とは?未経験者が知っておくべき現実もあわせてご覧ください。
| パターン | 内容 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 固定残業代が、長時間分含まれる | 給与は高く見えるが、残業が前提になっている | 固定残業の時間数と、超えた分の支給 |
| 研修と称して、無関係な仕事をさせる | 入社後に、エンジニアの業務とは関係のない配属になる | 研修の内容と、配属の実績 |
| 商流が深いSES | 二次受け・三次受けが多く、単価が下がり、給与が上がりにくい | 商流、配属先の決まり方、還元の説明 |
| 常時募集で、離職が多い | 同じ求人が、何か月も出続けている | 募集の理由、離職の状況 |
| 実態と違う求人 | 求人票と、入社後の業務・条件が異なる | 労働条件を書面で確認 |
| 内定を急がせる | 短い期限で、承諾を迫る | 期限の理由と、他社の選考への配慮 |
| 評価・昇給が、不明確 | 給与が上がる基準が、説明されない | 評価の仕組みと、昇給の実績 |
この中でも、「研修と称して、無関係な仕事」は、未経験の方が、特に気をつけたいパターンです。当社でも、未経験からでも、きちんとエンジニアとして育成され、実務経験を積める企業かを、見極めることを、大切にしています。
| 求人票の表現 | 読み解き方 | 確認すること |
|---|---|---|
| 未経験歓迎・学歴不問(強調) | 未経験の受け入れ実績がある可能性。強調しすぎる場合は、離職が多い可能性もある | 研修の内容、未経験入社者の配属・定着の実績 |
| アットホームな職場 | 雰囲気の説明だけで、具体的な制度の記載がない場合がある | 評価・研修・残業の具体的な説明 |
| 実力次第で高収入・月収例○万円以上 | 最高額の例だけで、実際の平均が分からない | 月収例の内訳(固定残業代を含むか)、平均の水準 |
| みなし残業・固定残業代 | 残業が前提になっている可能性 | 固定残業の時間数と、超えた分の支給(下記のルール) |
| 常時募集・大量募集 | 募集が続いている背景がある | 募集の理由、離職の状況 |
| 客先常駐・勤務地全国 | 配属先で、働く環境が変わる | 配属先の決まり方、希望の反映、案件の幅 |
| 試用期間の記載が長い・条件が異なる | 試用期間中の条件が、本採用と違う場合がある | 試用期間の長さと、給与・待遇の違い |
| 研修あり(内容の記載なし) | 研修の中身が、説明されていない | 期間、内容、研修後の配属 |
求人票の言葉だけでは、実態は分かりません。気になる表現があれば、面接やエージェントを通じて、具体的に質問してください。求人票の見方は、インフラエンジニアへ未経験で転職する方法でも、解説しています。
固定残業代(みなし残業代)を採用する場合、募集要項や求人票には、次の3つの内容を、すべて明示することが必要です(厚生労働省、職業安定法と指針に基づく)。
たとえば、「基本給○円、固定残業代○円(時間外労働の有無にかかわらず、○時間分の時間外手当として支給)。固定残業時間を超えた分は、追加で支給します」といった書き方です。この3つが揃っていない求人は、注意が必要です。
⚠ 注意
固定残業代は、残業が「ない場合」でも支給される手当です。ただし、固定残業時間を超えて働いた場合は、超えた分の割増賃金を、別途支払う必要があります。給与に含まれる残業代の時間数が長いほど、長時間労働が前提になっている可能性があります。
なお、2024年4月から、労働者の募集や、職業紹介事業者への求人の申込みの際に、明示しなければならない労働条件が追加されました(就業場所や、業務の変更の範囲など)。最新の内容は、厚生労働省の公式ページで確認してください。
| 質問 | 見るポイント |
|---|---|
| 研修は、何か月で、どんな内容ですか | 期間・内容が、具体的に説明されるか |
| 入社後の配属は、どのように決まりますか | 希望が考慮されるか。配属の実績が、示されるか |
| 未経験で入社した方の、その後の経験を教えてください | 構築・設計など、上位の工程に進んだ実績があるか |
| 残業は、月にどのくらいですか。繁忙期は | 平均と、繁忙期の水準を、具体的に答えるか |
| 固定残業代は、含まれていますか | 時間数と、超過分の支給が、明確か |
| 夜勤・シフト・待機はありますか | 頻度と手当が、明確か |
| 評価と昇給の仕組みを教えてください | 基準と、実際の昇給の例が、示されるか |
| この求人の、募集の理由は何ですか | 増員か、欠員かなど、背景が説明されるか |
| 直近1〜2年の、離職の状況を教えてください | 隠さず、具体的に答えるか |
| 資格取得の支援は、ありますか | 受験料の補助や、学習時間の確保が、制度として決まっているか |
質問に対して、あいまいな回答や、不機嫌な反応が返ってくる場合は、注意が必要です。聞きにくい質問は、転職エージェントを通じて、確認することもできます。
当社の面談では、「口コミが多い会社が、一概に悪い」とは言えない、とお伝えしています。ただ、ブラック系の会社に入社してしまった、という相談は、数多くあります。気になる会社があれば、会社名をお聞きすれば、その会社の特徴を、お伝えできます。
| 確認先 | 確認できること | 注意点 |
|---|---|---|
| 厚生労働省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」 | 送検された事案の、企業名・違反法条・事案概要(令和7年9月1日〜令和8年8月31日公表分が、2026年9月30日に掲載) | 公表されるのは、主に送検された事案。掲載されていない=問題がない、ではない |
| 職業紹介事業者の許可 | 有料職業紹介事業の許可番号(エージェントを使う場合) | 許可番号が確認できない、または手数料の説明があいまいなエージェントは、注意する |
| 企業の公式情報 | 設立年、従業員数、事業内容、取引先 | 実態と、説明が合っているかを、面接で確認する |
⚠ 注意
厚生労働省の公表事案は、「ブラック企業の一覧」という公式の分類ではありません。事案ごとの違反内容を確認し、あくまで、参考のひとつとして使ってください。
SES(客先常駐)は、すべてが良くない、ということではありません。ただ、会社によって、働き方と成長の差が、大きくなります。当社の面談では、次の点を、お伝えしています。
| 確認点 | 見るポイント | 注意が必要な例 |
|---|---|---|
| 商流の深さ | 元請けから、何次受けか。直接契約か | 二次受け・三次受けが多く、単価が上がりにくい |
| 会社の規模・設立年数 | 取引の実績と、安定性 | 設立から年数が浅く、取引先が少ない |
| エンジニアの配属 | チームで配属されているか、一人配属か | 配属後のフォローが、ない |
| 営業の力 | 条件の良い案件を、取ってこられるか | 案件の選択肢が、少ない |
| マージンの還元率 | 「還元率○割」を、前面に出していないか | 還元率を強調する一方で、育成や評価の説明が薄い |
| 案件の選択 | 希望が、考慮されるか | 希望を聞かずに、配属が決まる |
「マージンの○割を還元」と強くうたう会社は、基本的に、注意が必要です。キャリアとして評価し、育てる会社のほうが、長く続けやすい傾向があります。SESの働き方は、SESはやめとけ?未経験が後悔しないための事実とキャリア戦略と、SESに転職して大丈夫?で解説しています。
企業は、労働契約を結ぶとき、賃金や労働時間などの労働条件を、労働者に明示する必要があります(労働基準法第15条)。内定後は、必ず、書面(労働条件通知書)で、次の点を確認してください。
求人票の内容と、労働条件通知書の内容が、異なる場合は、入社前に、理由を確認してください。納得できないまま、承諾しないことが大切です。
この順番で確認すると、応募の前に、リスクの高い会社を、減らせます。1社に決める前に、複数の会社を比べることも、大切です。
避けるべき点だけでなく、「良い会社は、どう見えるか」を知っておくと、比べやすくなります。次の点が揃っている会社は、働き方や成長の面で、安心できる可能性が高くなります。
| 観点 | 良い会社の特徴 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 研修 | 内容・期間・講師が具体的で、研修後の評価方法も、説明される | 面接で、カリキュラムの資料を、見せてもらえるか |
| 配属 | 未経験入社者の、配属先と、その後の経験が、説明される | 未経験で入社した方の、事例を聞く |
| 働き方 | 残業・夜勤・休日が、数字で説明される | 月平均と、繁忙期の水準を質問する |
| 評価 | 評価基準と、昇給・昇格の実績が、明確 | 入社3年目の方の、役割と年収のモデルを聞く |
| 制度 | 資格取得の支援が、制度として決まっている | 受験料の補助、学習時間の確保、報奨金の有無 |
| 対応 | 質問に、誠実に答え、不利な情報も話してくれる | 面接官・担当者の、受け答えを見る |
当社の入社者でも、志望度が高く、入社後のキャリアが描ける会社に入った方は、定着している傾向があります。入社後1年以内の定着率は、98%です(201名が対象、自社集計)。入社を決める前に、「入社後のキャリアが、具体的にイメージできるか」を、確認してください。
面接は、企業が応募者を見る場であると同時に、応募者が企業を見る場でもあります。違和感を覚えたら、遠慮せずに、質問してください。
どれだけ確認しても、入社後に、条件や実態が違うと感じる場合があります。その場合は、感情的に動かず、次の順で整理してください。
法令に反する働かせ方がある場合は、我慢せずに、外部の窓口に相談してください。転職を考える場合は、次の会社を選ぶ前に、「何が合わなかったか」を整理することが、同じ失敗を繰り返さないために重要です。退職理由の伝え方は、IT転職の退職理由の伝え方をご覧ください。
求人票や面接だけでは、分からない情報は、数多くあります。転職エージェントを使うと、企業の人事や役員へのヒアリングをもとにした、内部の情報を、確認できる場合があります。
有料職業紹介事業者は、求職者から手数料を受け取ることはできません(厚生労働省)。エージェントの選び方は、IT転職エージェントの登録から内定までの流れと、転職エージェントのデメリットと注意点で解説しています。
当社は、企業の人事や役員に、直接ヒアリングをしたうえで、求人をご案内しています。採用コンサルティングで、エンジニア採用をする複数の会社の面接官を担当しており、選考の実態も、踏まえてお伝えできます。入社後1年以内の定着率は、98%です(201名が対象、自社集計)。
入社前の確認チェックリスト
「ブラック企業」は、公式な分類ではないため、公式の一覧はありません。厚生労働省は、「労働基準関係法令違反に係る公表事案」として、送検された事案の企業名などを公表しています。ただし、掲載されていない=問題がない、ではないため、求人票・面接・口コミとあわせて、判断してください。
固定残業代があること自体は、違法ではありません。ただし、求人票に、基本給の額・固定残業の時間数と金額・超過分の追加支給の3点が明示されているかを、確認してください。時間数が長い場合は、長時間労働が前提になっている可能性があります。
SESが、すべてブラックではありません。会社によって、働き方と成長の差が大きくなります。商流の深さ、配属の決まり方、育成の体制、還元率の説明を、確認してください。
聞いて問題ありません。聞き方を工夫して、「長く働きたいので、実態を確認したい」という姿勢で伝えます。聞きにくい場合は、転職エージェントを通じて、確認することもできます。
労働条件通知書や就業規則と、実態を照らし合わせ、事実を日付つきで記録します。社内で解決しない場合は、労働基準監督署や、総合労働相談コーナーに相談してください。
期間の定めのない雇用の場合、退職の意思を、2週間前までに伝えれば、解約できます(民法第627条)。就業規則の定めも確認してください。短期間での退職は、次の転職で説明を求められるため、理由を整理しておきましょう。
完全に避けることは難しいですが、研修の内容、配属の実績、固定残業代、離職の状況などを、具体的に質問することで、リスクを下げられます。当社の入社後1年以内の定着率は98%です(201名が対象、自社集計)。
求人や企業について、気になる点があれば、お気軽にご相談ください。会社名をお聞きすれば、その会社の特徴を、お伝えできます。
アドバイザー
百瀬将悟
大学卒業後、不動産会社に入社。その後、求人広告営業・キャリアアドバイザーを経験。現在は両面型のアドバイザーとIT企業の採用コンサルティングに従事。
採用と転職市場の両方を理解している点を強みとし、「市場価値を高めながら活躍できるエンジニア」になるためのを転職サポート。